水道工事の現場力
人が辞めない現場は、どうつくられるのか
―現場のDXは、終わりのない積み重ね―
紙の打ち直しから、デジタル機器を活用する現場へ。「ミスが起きない仕組み」で品質を支える福岡日野組の現場DX。
この記事でわかること
福岡市を拠点に水道工事を手がける株式会社福岡日野組が、クボタの「施工情報システムⅡ」を活用して取り組んだ現場DXの実践事例です。紙のチェックシートの転記・打ち直しによる人為的ミスや残業の常態化といった課題を、「ミスを減らす」のではなく「ミスが起きない仕組み」でどう解決したのか。属人化していた品質の標準化、発注者(福岡市)との創意工夫による合意形成、現場の声をメーカーへ届ける「使いながら磨く」姿勢、そして「人が定着する現場づくり」を目的に据えた、無理のないDXの進め方までを紹介します。
01 書類のミスが当たり前になっていた現場
水道工事(管工事)の現場では、施工と同じくらい、日々の書類作成やチェック業務が大きな負担となっています。福岡市を拠点に水道工事を手がける株式会社福岡日野組も、かつてはその例外ではありませんでした。
現場で記録し、事務所に戻って書類をまとめる。一見当たり前のこの流れの中に、ミスの要因が潜んでいると、同社の代表取締役社長 日野様は当時の苦労を振り返ります。
「小雨が降る悪条件の中、紙のチェックシートに書き込み、事務所に戻ってからパソコンで打ち直す。その際、過去のデータをコピペすることもありますが、その過程で数字修正などを忘れるといった人為的なミスが、どうしても生じてしまっていました。それがすべて工事の品質低下につながるんです」
確認を重ねるほど作業時間は延び、結果として、水道工事の現場では残業が常態化していく構造が生まれていました。品質を守るために、時間が奪われるという状況は、同社にとっても大きな負担となっていました。
「紙の打ち直しの過程で、人為的ミスが生じていた」と当時を振り返る、代表取締役社長 日野様。
02 「誰がやっても同じ品質」を仕組みでつくる
こうした状況を変えるため、同社が導入したのは、クボタの「施工情報システムⅡ」でした。目的は明確で、ミスを減らすことではなく、ミスが起きない仕組みをつくることです。
「人がチェックする以上、限界があります。だから仕組みでその限界を超えたかった」
システムを使うことで、現場で入力した情報はその場で判定され、日報やチェックシートが自動で作成されます。これにより、「転記」や事務所での「打ち直し」といった作業そのものが不要になりました。
「システムがその場で判断してくれるので、間違えようがありません。精神的な負担がまったく違います」
さらに大きかったのは、経験の差に依存しない点だと日野様は言います。
「何年も経験を積んだベテランでなくても、簡単な操作で管理業務に携わることができます」
従来はベテランの経験に依存していた現場管理も、システムの導入によって一定水準で再現できるようになりました。属人化していた品質を仕組みで標準化する。それが、同社が選んだDXのかたちでした。
キーメッセージ:「ミスを減らす」から「ミスが起きない仕組みへ」。属人化していた品質を、仕組みで標準化する。
夜間や悪条件の現場でも、入力した情報はその場で判定。「転記」「打ち直し」が不要に。
03 DXの目的は「評価点」ではなく「人が残ること」
同社がDXに踏み切った理由は、単なる業務の効率化や評価点対策だけではありません。
「一番大事なのは、社員が定着することです」
施工後も書類作成が続く現場では、長時間労働が常態化しやすく、とくに若手にとっては離職の一因にもなりかねません。
「現場が終わってから事務所に戻って、そこからまた作業をする。それが当たり前になると、人は続きません。とはいえ、楽をして品質を落とすのではなく、仕組みで品質を上げる。その上で、定時に帰れるようにすることが理想です」
同社が目指したのは、単なる効率化ではありません。品質を維持しながら、無理なく働き続けられる環境をつくることでした。
「施工情報システムⅡ」の導入は、従業員が定着する現場をつくるという同社の考え方に合致しました。
DXの目的は「人が残ること」。定着する現場づくりを目指す。
04 創意工夫で、発注者とともに現場を変える
無理のないDXは、社内だけで完結するものではありません。発注者との関係づくりもまた、重要なテーマです。
新しい仕組みを現場に定着させるには、発注者との丁寧なすり合わせが欠かせません。水道工事の分野では、品質管理の観点から書式や手順が厳格に定められており、新たな手法を取り入れる際には、その基準との整合性を一つひとつ確認していく必要があります。
「水道工事は公共インフラですから、新しいやり方を取り入れるには慎重さが求められます。ただ、前例がないからといって立ち止まるわけにもいかない。だからこそ、まず自分たちが実践して見せることが大事だと考えました」
同社はまず、電子黒板を使った書類提出という形で、新たな運用の実績づくりから着手しました。
「紙と電子データの両方を提出して、『これで問題ないですか?』と確認していきました。受け取っていただければ、それが次の実績になる。一歩ずつ信頼を積み重ねていく感覚です」
こうした地道な取り組みが認められることで、次の提案がしやすくなっていったといいます。
クボタの「施工情報システムⅡ」の導入時にも、この姿勢が活かされました。
福岡市では一部独自のチェック様式(ゴム輪の有無に関する記載項目など)が定められており、システムの出力内容との間に若干の差異がありました。
そこで同社は、福岡市の様式に対して、施工情報システムⅡを活用した新たなチェック方法を改善提案するというアプローチを取りました。クボタの担当者とともに福岡市を訪問し、システムの実際の出力帳票を示しながら、市の品質基準との整合性を丁寧に説明。水道工事の現場で施工情報システムⅡを用いて創意工夫に取り組んだことが福岡市からも評価を受け、システムを活用したチェック様式での運用が認められました。
福岡市自身も遠隔臨場をはじめとしたICT/IoTの活用に積極的に取り組んでおり、福岡日野組と福岡市がともに工事現場の改善に取り組む中で、こうした前向きな提案が受け入れられる土壌が生まれています。
発注者(福岡市)とともに、一歩ずつ実績と信頼を積み重ねる。
05 現場の声を、次の改善につなげる
システムは導入して終わりではありません。使い続ける中で、改善すべき点も見えてきます。暗所や水の多い環境での使い勝手など、水道業界特有の課題が挙がっています。「現場で使ってみて初めて見えてくることは多い」と日野様は話します。
こうした声は単なる不満ではなく、実際の現場で使われているからこそ見えてくる改善のヒントでもあります。同社では、こうしたリアルな要望を積極的にメーカーへフィードバックしています。一方でメーカー側も、寄せられた声を次のアップデートや開発に向けた重要な「改善テーマ」として活かそうと前向きに動いています。
自分たちが上げた声がしっかりとメーカーに届き、より使いやすいシステムへと進化していくプロセスを実感できることは、モチベーション向上にも大きくつながります。
こうした「使いながら磨く」姿勢が、無理のないDXを支えています。
06 無理をしない運用が、定着する現場をつくる
DXは一度にすべてを変えられるものではありません。効果がすぐに表れるものではなく、現場の中での積み重ねを通じて、少しずつ形になっていきます。
「電子黒板も、最初は誰も使っていなかった。でも、今は普通ですよね」
無理に導入するのではなく、働く人の状況に合ったかたちで取り入れ、使い続けること。その継続が、働き方や品質の改善につながっていきます。
福岡日野組の取り組みは、特別なケースではありません。「施工情報システムⅡ」を活用した現場から始まるDXは、各地で同様の取り組みが芽吹き始めています。
結論:無理をしない運用の「継続」こそが、働き方と品質を変える。DXは、終わりのない積み重ね。
まとめ
- 水道工事の現場では、施工と同じくらい書類作成・チェック業務が負担となり、転記や打ち直しによる人為的ミス・残業の常態化が課題だった。
- クボタ「施工情報システムⅡ」の導入で、現場入力情報をその場で判定し、日報・チェックシートを自動作成。「転記」「打ち直し」が不要になり、属人化していた品質を仕組みで標準化。
- DXの目的は「評価点」や効率化ではなく、社員が定着する現場づくり。品質を上げながら定時に帰れる環境を目指した。
- 発注者(福岡市)とは、電子黒板を使った書類提出など実績を一歩ずつ積み重ね、施工情報システムⅡを活用したチェック様式を改善提案。市の品質基準との整合性を丁寧に説明し、運用が認められた。
- 暗所や水の多い環境など水道業界特有の課題は、メーカーへ積極的にフィードバック。「使いながら磨く」姿勢が無理のないDXを支えている。
- DXは一度に変わるものではなく、現場に合ったかたちで取り入れ、使い続ける「継続」こそが働き方と品質の改善につながる。










