水道工事の現場力
会話が増えた現場は、なぜ強くなったのか
― 折本設備が選んだ、人を増やさない働き方 ―
この記事でわかること
人を増やせない時代に、現場をどう回し続けるか――。神奈川県の工事会社・折本設備が出した答えは、「会話を増やす」というシンプルなものでした。仕事の置き場所を変え、世代を超えて教え合う文化を作ったことで生まれた、組織の好循環。Aランクの大規模案件を回す水道管工事会社の、人を増やさない働き方の現実解を聞きました。
01 「もう、これ以上は突き詰められない」と思った日から、すべてが始まった
神奈川県で水道施設工事を手がける折本設備。創業以来、管工事に特化し、Aランクの大規模案件を受注するまでに成長した同社だが、その道のりは平坦ではなかった。
「現場の準備を徹底する」というやり方を貫き、5人でやっていた工事を3人に減らし、同時に回せる現場を2つから3つに増やしてきた。
「とことん突き詰めてきたんです」と折本社長は振り返る。
実力が上がるほど受注は増え、評価が上がるほど大型案件を任される。仕事で仕事が増える。そこに、働き方改革の波が押し寄せた。時間外労働の規制、完全週休2日制――。
「現場は9時から5時。でも9時に来て9時に始められるわけがない。帰ってきたらくたくたで、そこから書類整理して……今までは当たり前だったけど、もうそれじゃ回らなくなった」
効率化はやり尽くした。残されたのは、業務の進め方ではなく、「誰が仕事をやるか」という体制そのものを見直すことだった。
「とことん突き詰めてきたんです」と当時を振り返る折本社長(左)と、現場側の視点を補足する池田課長(右)
02 外注ではなく、社内で分けた理由
限界を迎えた時、業務の一部を外注するという選択肢もあった。しかし折本社長は、迷わず内製化を選んだ。
「書類の部分を外部委託しようとは思いませんでしたね。仕事の情報が外に漏れてしまう懸念がある。管理上の資料とか、結構重要なものを扱っていますから」
その判断の背景には、書類業務に対する明確な考え方がある。
「自分たちが行っている仕事を証明する、重要な手段です」
水道管工事は、完成すれば地中に埋まる。品質も技術も、最も重要な部分が誰の目にも触れなくなる。だからこそ書類が「証明書」になる。見栄えも含めて、評価はそこで決まる。
証明の質を他者に委ねるわけにはいかない。だから外注ではなく、社内で「誰が担うか」を変えた。
施工計画、日報、写真管理、伝票処理――現場の人間が「帰ってきてからやっていた仕事」を、事務スタッフに少しずつ移していく。ただし、「丸投げ」はしない。
「コミュニケーションを取りながらやるのが大事。デジタルで送られてくるから『これでいいでしょ』とやってしまうと、違う方向にいってしまう」
分業の境界線に、コミュニケーションを置く。これが折本設備の体制設計の核心だった。
03 「みんなやるんだよ」――50代も若手も、教え合う文化
仕事の置き場所を変えるには、情報の流れも変えなければならない。折本設備が新しいツールの導入を始めたのは、電子黒板からだった。雨で消えるチョーク、風で倒れる黒板。それが携帯でサッと撮って終わる時代になった。折本社長のスタンスは一貫していた。
「俺が社長としてやると言っているんだから、とにかく取り組め、とにかく慣れろ」
しかし、トップダウンだけでは定着しない。折本設備が大切にしたのは、「みんなで教え合う」文化だった。
「毎日毎日、帰ってきたら『どうだった?』『こういう場合どうなんだ?』と意見を聞いていた。50代の人間もいるけど、みんな同じ。『みんなやるんだよ』と。教え合う。そうやってコミュニケーションが増えたんですよ」
業界では、新しいツールを「若手任せ」にして、ベテランとの間に温度差が広がる例が少なくない。折本設備が違ったのは、ベテランも含めて全員が「同じ立場で慣れる」というルールを徹底したことだった。
今まではプロ同士、何も言わずにやっていた。新しい仕組みに取り組むことで、わからないことを聞きやすくなり、話しやすい雰囲気もできた。
「楽しく取り組めたというのは、うちとしてはすごく良かったですね」
効率化のために入れた仕組みが、組織の空気を変えていった。
神奈川県・相模原市に拠点を構える折本設備。社員全員で「教え合う文化」を育んできた
04 会話が増えた現場で、起きていたこと
コミュニケーションが増えたことで、折本設備は変わった。
まず、人材活用の幅が広がった。女性従業員は、以前の3人から8人に増えた。
「CADを一から教えるのは無理でも、ソフトがしっかりしていれば操作だけだから。写真整理も、覚えさえすればできる」
仕組みが整い、会話が活発な組織になったことで、新しい人材が育つ環境が生まれた。さらに驚くのは、正社員として現場代理人・主任技術者にまでなった女性がいることだ。
「せっかくうちの会社に入ってくれたんだから、将来的には女性の目線から『ここは違いますよ』と現場に指示が出せるぐらいになってほしい。裏方も表も知ることで、両方が強くなりますから」
結果として、以前は19時まで続いていた残業は17時過ぎに短縮された。日給月給から月給制への切り替え、完全週休2日制の導入も進めた。
「しっかりした待遇があれば、気持ちよく帰れるし、気持ちよく仕事ができる。そうすれば結果も出る。そういう好循環ですね」
効率化、人材活用、待遇改善――これらはすべて、ツールを入れた直接の効果ではない。会話が増えた組織から生まれた、副産物だった。
仕組みが整い、人材の活躍の幅が広がった。女性従業員は3人から8人に増加した
05 折本設備の取り組みから見えてくること
「『まずやってみる』ということをやってくれればいい。でもそれが簡単にはできない」
1から10まで全部わかっていないと動けない。途中でつまずくのが怖い。そうした感覚は、多くの現場で共通しているのかもしれない。
「でも結局、やるとなったらやるしかない。文句は出るかもしれないけど、そこがきっかけになることもある」
折本設備の取り組みを振り返ると、いくつかの印象的な場面があった。
現場業務の中には、場所を変えて進められる仕事があったこと。
分業の中でも、やり取りを重ねる場面が多く見られたこと。
そして、特定の人に任せるのではなく、全員で取り組んでいたこと。
そうした積み重ねが、結果として組織のあり方を変えていったのかもしれない。
人を増やせない時代に、現場をどう支えていくのか。その問いに向き合う中で、折本設備が選んだ形が、ここにあった。
「うちの仕事は、穴を掘って、管を入れて、埋めてしまう。一番大事なところが、目に見えなくなるんです」——見えないからこそ覚悟をもって誠実に仕事に取り組む。折本設備はそのためにできる改善を重ねて、現場を強くし、無駄を省いて、当たり前の日常を支え続けている。
「会話を増やす」というシンプルな答えにたどり着いた折本設備。同じ課題を抱える現場へのヒントが、ここにある
まとめ
- 折本設備は、現場の効率化を極限まで進めた先で、「仕事の置き場所を変える」という判断をした
- 外注ではなく内製化を選んだ理由は、書類が「見えない仕事の証明書」であり、その質を外部に委ねられないから
- 分業の境界に意識的にコミュニケーションを置いたことが、組織の対話を生む鍵になった
- 「みんなやるんだよ」――50代も若手も同じ立場で取り組む文化が、世代間の温度差を埋めた
- 会話が活発な組織になったことで、女性従業員が3人から8人に増加し、現場代理人・主任技術者まで育成された
- 同事業者が取り組むなら:①現場業務を切り分ける ②分業の境界にコミュニケーションを置く ③トップ主導で全員を巻き込む










